現代アートとお寺(光徳寺)が出逢う 3幅の額装

今回は、埼玉県さいたま市見沼区にある「光徳寺」様よりご依頼いただいた、現代アート作品の額装事例をご紹介いたします。

額装させていただいたのは、日本を代表する現代美術家・村上隆氏の作品3点。宗教的なモチーフとポップカルチャーを融合させた独特の世界観を持つ村上氏のアートは、お寺という空間においても異彩を放ちながら、どこか不思議と調和する力を持っています。

作品ごとの個性が強いため、額縁やマットの選定には繊細な感覚が求められます。 

しかし、光徳寺のご住職は、ひとつひとつのパーツをまるで導かれるように直感的に選ばれました。マットの色、面金のバランス、額縁の質感…。それらを迷うことなく決めていく様子は、まるで御仏の声を受け取っているかのような佇まいでした。

【三作品それぞれの額装解説】

『みよ。黄泉の世界を。』~妖怪と神仏が交差する、精緻な群像劇のような一幅

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この作品は、見る者を異世界へと引き込むような妖怪画。左右に並ぶ異形の人物とその足元に集う無数の精霊・神仏たちが、複雑に絡み合うように描かれています。背景には細かな紋様がびっしりと敷き詰められ、色彩の洪水ともいえる構成の中に、秩序と物語性が宿っています。

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この緻密で情報量の多い作品に対して、ご住職はあえてフレームに「静」を求めまたのでしょうか。選ばれたのは、深みのある黒茶の古艶フレーム。これにより作品の熱量を抑えることなく、逆に空間との調和が生まれました。

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また、作品を縁取るマットは、仏画で使われる金襴を思わせる落ち着いた金色。面金も最小限に抑え、絵そのものの力を前面に出しています。群像のなかに仏性が宿るような、不思議な余韻を感じさせる仕上りです。

 

『達磨大師』 ~ 強い眼差しと視線の衝突――“達磨”か、それとも現代の覚者か

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こちらは、画面いっぱいに顔を寄せる大きな達磨のような人物。極端にデフォルメされた眼差しは、まるでこちらの内面を見透かすような鋭さを持ち、背景の市松模様のグレーがその強さをさらに引き立てています。

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この作品に対し、ご住職は赤のマットを即決されました。この赤が作品の「目」と完璧に呼応し、額装全体の緊張感を高めています。フレームには艶のある漆黒を選択。強烈な画面構成に負けない存在感を放ちながらも、宗教的荘厳さを漂わせる絶妙なバランスです。内側に通された金の面金は、さながら仏像の光背のような効果を生み、作品に“格”を与えました。まるで祈りと対話するような、迫力ある仕上がりです。

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『慧可断臂図』 ~ ただ“手”だけで語る、禅の悟り ― 現代に甦る「一指禅」の境地

最後にご紹介する一作は、他の2点とは一線を画す、静けさと緊張感を内包した作品です。
画面の中心には、血をにじませた片腕と、真っ直ぐ空を指し示す“指”。その上には、墨のしずくを垂らすような僧衣の一部と、禅の言葉が力強く記されています。

この作品のタイトルは『慧可断臂図(えかだんぴず)』。

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6世紀の中国、慧可(えか)が達磨大師に弟子入りを懇願する際、自らの左腕を切り落とし、その覚悟を示したという有名な禅宗の逸話をもとに描かれています。
添付左の画像にある国宝『慧可断臂図』を現代的に再解釈し、あえて腕だけで“語らせた”大胆な構図は、村上隆氏ならではの表現です。

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背景には一見無地にも見えるグレートーンが広がっていますが、よく目を凝らすと、無数のドクロ(髑髏)模様がうっすらと浮かび上がり、生と死、執着と無常の世界観を静かに語りかけてきます。

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ご住職が選ばれたのは、深く渋い紫の布マット。その色合いは、作品の「余白」の精神性と美しく調和し、鑑賞者に静かな対話を促します。
また、マットの内縁には細く赤いラインを一筋だけ通し、空気をピリッと引き締める効果を添えました。

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額縁には、鉄錆(てつさび)風の重厚なフレームを採用。華美を避けつつも、どこか仏教的な荘厳さと力強さを感じさせる存在感があり、“禅”と“死生観”が共存する本作を、しっかりと受け止める構造となっています。

*慧可断臂図とは、慧可(神光)が達磨に弟子入りを懇願する際に、自らの左腕を切り落として覚悟を示したという故事を描いた絵画です。この絵画は、禅宗の二祖・慧可が、初祖・達磨に教えを請うため、強い決意を示すために自らの腕を切り落としたという逸話を描いたもので、国宝に指定されています

 

これら3点はいずれも個性が強く、現代アートならではの表現を持ちながら、仏教の教えや精神性と深く共鳴しています。そしてそれぞれの作品に最適な額装を直感的に選び抜いたご住職の感性は、まさに「額装もまた、祈りのかたち」であることを教えてくれました。

この額装作品はすべて「光徳寺」さんへお声がけをして頂ければ、ご覧になることが出来ます。
是非、お立ち寄りください。